運命の逆算              2009.07.02記

今日もまた、
日が暮れて、深夜の机といつもの座椅子。

もう、
すれっからしになった座椅子を斜めに倒し、
べったりともたれかかり、首に手を組み脚を伸ばしている。

深夜の事務所でひとり。 

何気なく見ていたいつもの時計・・・・
「チッチッチッ・・・・・・」と、刻みつづけている秒針。


たばこの煙が、くもの糸のようにスッと伸びて
しばらく針の動きを2周、3周と追っていると、

いつのまにか引き込まれていて・・・・

わからないものに集中していて
そのうちに怖くなり始める。

音もなく、非情に進む秒針が、
刻々と自分の何かを削っているように思えてきて、
      どんどん渦巻かれて、抜けだせなくなっている。

たぶん頭の中にめぐっているものは・・・・・

自分のこれまでが、
     追われ追われて今に至っていて、
        たくさんのなにかが過ぎ去っていて、

振りかえると、自分が一体どこを通り走ってきたのか?
                     思いだせない。

14年の月日( 人を憎み、心を失っていた時間 )・・・
          数枚の写真だけが残る、いかれた空白。

夢中で盲目的に走り続けたあと、
風に触れたことや、確かに見てきたはずの風景にすら、
感じることも、思うこともないままに、
          過ぎ去ってしまった・・・・
                 
 ≪ 自分の時間 ≫。

しがらみや義務にがんじがらめになり、
箱詰めになって費やしてきた、
  使い終わった時間と・・・・・残されている時間・・・。

今この時も無情に進み、過ぎている時間は・・・・お前なんだよ 
               ・・・・そんな声が聞こえてくる。

そしてこう思う・・・。
後、どれだけの人と出会え、
       後、どれだけ納得が出来るだろうか?

あと、いくつある  

・・・・あと残り、いくつ・・・・・

せめて、

そう意識を高めて敏感に、逆算の想定をしておこう。

移りゆく空は止まらない
雲の流れは、今、この場に立っている孤独な秒針・・・・・
                    

雨上がりに焼ける夕日。

それが鮮明なほど、自分が生きている証、 
       この時の確かな命の実感が足りなくなる

ひとり深い夜に立ちつくして、
       樹林と空を重ねれば、
           そこは静脈模様の世界が広がり、
誰もいない、おドロしさの中で
唯一抱えた気持ちを降ろすことができる。

光に憧れるふりをしながら
薄暗い闇の中でなければ息をする事ができない…。

そんな

長かった矛盾と葛藤の時間を経て、
今、自分は、ようやく自分を知る糸口を見つけて、
   本当の自分の自然を、つかまなければならないと思っている。

生きているってどういうこと?
・・・・体裁や、比較や、嫉妬とは真逆な・・・・
・・・素朴?激しさ?・・・滲んでいる?溶けるようなこと?
     でも確かな存在のある世界へ・・・・。

ここ数年、俺はいつも鉄紺の無限。
透きとおった闇の寒さの下で、
この外気と同じ温度(体温)になれれば、
もっと無垢な世界が見えるのではないか?とさえ思う

お前に出来ることとはなに・・・? 
       

その想いは、いつか訪れる死も、
      生きている最後の時間として考えたい。

もしも、叶うなら、
最後の死を受けて送られるまでの時間を、
              こんなふうに描きたい。

11月、霜月の初冬・・・・
自分の亡骸は、
まだ体温の残るうちに一畳の畳大の黒い台に乗せられて。

装束はまとわず、天狗帖(てんぐじょう)の
  極薄に透けた和紙を胸元までかぶせて、運ばれる。

その場所は、遠く街灯もない、
         空が広くひらけた山あいの田園で。

その中心にやぐらを組み、台は静かにおろされる・・・・・

そうして、
出来るだけ単調で、ゆったりと響くピアノの音色を……

例えば、
【戦場のメリークリスマスのテーマ】
・・・のようなやさしい響きを、
    夜明けまで空に向け、繰りかえし流しつづけてほしい。


 
                   写真提供:岩本茂

この葬儀は、お経や生花といった人間の形式はいらない。
ただ、月夜の下にさらされて、
     わずかに残る体温がうばわれて、
                大気と一体となる。

冷たく冷たくなって、消えてく・・・・

そんな最後の儀式としたい。

もし、参列者があるとすれば、
      亡骸の自分を取り囲む者は、
             田のあぜまでとし、
自分と、
それぞれの個々が別れの会話を静かにかわしたなら、
            そこは記憶の放射の星になる。


人々は去り、亡骸と月だけがのこる。
   やがて、くりかえされるピアノの音は、
群れた黒雲を呼び、
     ちらついて落ちる雪が舞うことだろう。

明朝、わずか数センチの細雪が、
     この亡骸を雪面の皮膚としておおい、
         静かな儀式が終わり

・・・・・やがて陽の光。
      遠く地をはう水蒸気のかすみ、
       稲株には無数の水滴が、ただ光っている。

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