師からの手紙 5

挾土秀平様

前略 電話ありがとう。

ニューヨーク、ブログ読ませてもらいました。


あのニューヨークのドブネズミ、
無人の夜の工事現場を
夜な夜なさまようドブネズミの影に
現代人の行先が、我々の未来が見えるような気がします。

コンクリートの壁、工事現場のプラスチックの缶、
アスファルトで固められた床、草もなく木もなく、

まして、土の地べたもない、
コンクリートの迷路の中を
生きながらえているドブネズミの不思議な生命力。

いわば、

見ず知らずの旅人を迎えてくれた
このドブネズミ達は、
ニューヨークの地霊だったのではなかろうか。

人は自分の生まれた土地では、
地霊が守護霊となって、
その土地にいる限りは守ってくれるから

その土地を離れると地霊も去ってしまうという。

たぶん、

あなたの前にあらわれたドブネズミは
遠いニューヨークの、地球の裏側の、
飛騨の地霊のこだまとなって

秀平を背後から見守る守護霊だったと。

ブルックリンの土管にこびりついた黄土や
道路工事の砂で塗った
両面宿儺の閉じた片眼と額の、有るか無きかの傷には

土地を失った地霊の
根こぎされた魂の未来が
写し出されているように私には思われる。

ニューヨークのハーレムで
最後に聴いた黒人ミサのゴスペルで
ニューヨークの本質を
読み取った秀平の内臓感覚は
ニューヨークも、東京も、飛騨も通底しているのだ。

この感覚を、
ドブネズミと共に、
ニューヨークで得たという事だけで
ニューヨークへきた甲斐があったと、私はそう思う。

傷ついた獣は、自らの舌で傷を舐めて、傷を癒やす。

自らのほかに、
誰も頼ることなく
自らの内なる自然と、土くれを舐めて。

歓待の西洋室がゆっくりと熟していくのを
心待ちにしている。

東京へ出たら連絡を・・・・ 草々。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

昨日、7:00 目覚めると外は雪、
靴が沈むほどの積雪に覆われていた。

8:40 西洋室の樹林を歩きながら
いつもの場所で立ちどまり
いつもの角度で景色を見渡して

・・・ひとりいる。

答えの見つからない事柄を思う・・・

山々は、ただ静か
白い田畑と、苔むして濡れた石垣が
眠っている

枯れ草が化石のように
風だけをきわだたせて、静か。

18:55 師からの手紙を読みはじめた

変わらぬ字、変わらぬ音に
深い安心を覚えて、何度も何度も読みかえす。

21:47 西洋室の樹林に立つと
空に流れている薄い霞が、一等星だけを輝かせ
月光と日陰の雪が、夜の青を反射させて

取り囲む樹林の幹の色を、くっきりと見せている

それは、はじめて見た、不思議な青い夜だった・・・

枯れ草も、樹の幹も、濡れ石の苔の緑も
見通せる青い夜に、ふっと思った。

これは賢治の夜?

そして
見いだせない答え。

師からの手紙、変わらぬ青いインク。

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