春を待って

もの心の
たどれる一番遠い記憶の
          おぼろな空気感

手を強く引かれて歩いた春の陽ざし。

その感覚が、今も記憶の底の底に、
          溶けないものとして残っていた。


日なたと日影の、
混じり気のない境界を踏んで

残雪の氷のみぞれ
入り混じった泥に汚れ、腐ったように溶けだし
あるいは淫らに染みだし、
生々しく滲んでいる

新調して貰った靴が
光ったぬかるみに沈み
見知らぬところで、きっとこの手は離されてしまう

鼻の乾いたかさつきが
喉に貼りつき、身体の水分を奪ってゆくような息苦しさを
伝えられず、ただ泣いていた

強く引かれる手の
戻れない不安に、ただ涙がこぼれた。

満開のサクラは
どう歩んだかを隠して
草の芽やひろがる緑が
ひとりになってしまう予感を強くさせた。

子どもの頃から春が嫌いだった。

そんな自分が今、
春をひたすら待っている。

人生で最も迷い、耐え抜いた2014年を抜けて

静かに眠り、じっとして動かぬ景色を
傷つけ、むきだしにした冬、
休まらない、この冬の息苦しさに

春の息吹を、ひたすら待っている。

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