こころの内側 その(一)

おだやかな風に吹かれている

遠い向こうからゆっくりと
           大きな雲が流れてくる

樹皮に巻きついていた
アケビのつるの先端が、昨日とは違った位置から、
                     こっちを見ている

目には見えない速度で
       しかし確実に移ろっている時間

折れて倒れた樹の幹を
         アリが群がって浸食している気配

風に乗って強弱で響き
         止むことなく続く、遠雷の連打の音

忍び来る流れと迫り来るもの
         すべてが動いていること、

それは立ち止まった瞬間に
         削られているということ

鳥も虫も雲も
     一面に広がる水田の
             風にゆれる一株の稲穂も

                 今、この時を刻んでいる・・・・急げ

魂とか心っていうものが、どこにあるのか知らない
    それはたぶん、からだ全体のどこかにきっとにある

頭だけで生みだそうとしているひと
       心と魂で、突き動いているひと

でも本当にいいものは、
        頭と心が一体になった時のみに生みだされる

しかしその時、
     人間は燃えつきてゆくのだという

燃えつきてゆく、こころとからだ・・・

今をいっぱいに生きていた一輪のバラが、
        明かりの消えた部屋のなかで枯れていた

                        あと残りいくつ
 

2月の終わり
       冬と春のあいだでは、氷と光がせめぎあう

厳しい朝の寒さに差し込んだ
         強い陽射し

雪面に滲んでゆく獣の足跡
         踏まれて汚れ、濁った雪解けと泥・・・

月と氷が手を組んで
        陽射しと枯葉が助け合う

眠る命と目覚める命

ぬかるみ始めた午後の農道を
        ひとりの老人が
             幼子の手を引いて歩いている

このせめぎあう季節の中で
            頬に手をあて、

胸の皮膚の温かさに手をあてて
              この命の密度を計っている

どの季節が好きかと言われたとき、
        たぶん秋だと、答えるのだろうと思う

はなやかな息吹の春では、
        ひとり淋しいことが目立ってしまうから

激しい夏では、
     太陽の陽射しや水面の反射を受け止め、
              はね返すだけの力がないから

秋は、その淋しさに溶けあうことができ
         豊かな美しさにまぎれて、
             少し自分を消すことができるから

でも、地上に落とすあの日暮れの長い影が、
             あまりに自分を切なくさせる

冬・・・

冬の青い夜
   痛く冷たい闇に白い息をはき
            自分を固めた小さな呼吸の深い眠り

降りしきる雪道に立つ

街灯の明かりと
     追いかけて姿もない、
           数台の自転車が残した螺旋の跡

私は、≪淋しい≫の表側にある
           わずかな勇気を、冬の中で取り戻す

                 冬が一番好きだと気付かされていた

夜を見上げて、そのまま目を閉じると
              心だけが浮かび

陽の光のなかでは、この一瞬だけがここにある

ひかりは存在、影は想い・・・

日暮れに染まった花の影が、
      土の壁にゆれている

水と土、一粒の砂と自分

そのものの命と、そのものの形は、
             光と影のあいだにある

雨の夜の風
冬の朝の霧

どうにもならない激しい感情につき動かされたあとには、
どうにもならないせつない感情が押しよせてくる

自分が放ち突き上げているものなんて
       ひとりよがりでしかなかったのだと気づく

すべては降りそそぎ
       それを受け入れるしかできず

降りそそいでいる中に
       自分をさらけ出しているしかないのだ

でも冷たくて
     今日もまたひとつにはなれなかった

生命の身体・・・・
     今、出来ることを惜しまず放出する力を
                     与えて下さいと願う
 

孤独で孤独で仕方がない

自分の中にある固有の模様をさがしている

毎晩眠りにつく時、
       目を閉じた闇のなかに

自分の姿がみえないだろうかと
       いつもさがしている

・・・・でも見えない

わかるのは情報や
     身のまわりにある現代の色や形に
            自分が消されているということ

ひとりでいる時

孤独で孤独で仕方がないとき
怒りにふるえて、いたたまれないとき
さみしさに壊れそうになるとき
高熱の体中に寒気が走るとき

ふっと自分がすこし見えて、
      何かの形が薄く透けた
              レースのカーテンの向こうにある

長く人といられなくなっている
時々人の声が聞こえなくなっている事に気づく

それは、もう言い争うことがいやだから
        これ以上、人の心を探ることに、
                 もう疲れているから・・・

樹立ちの中にいるのは
      上下に揺れる枝葉が
           うなずいているように見えるから

廃墟の中の錆びた鉄が
       不思議な落ち着きを与えてくれる

水がおりなす土と砂の肌合いは

平滑なほど、静かで、その向こうに広がる
                奥行きへと導いてくれる

自分に激しく
     焼きついてしまう場面がある・・・

哀しみ
  よろこび
     怒り、そして畏れ・・・

その残像は、目から心へ落ちてゆき
          すべてが一度、痛みに変わる

次の日も、その次の朝もずっと
          取りはらうことが出来ず息苦しい
 

鮮明な残像は、やがて薄れて音となって響き
          その音が薄れると、色となって残りつづける

身体のなかに刻まれた記憶の色が
          街の明かりに、通り過ぎる風景に、

着飾った衣装に蘇ったとき、
           私はひとつの形を生みだしている

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