日の丸弁当の唄(写真編)

縦24センチ × 横18センチ
深さ38ミリの金属製のふたを開けると


グッと圧縮されて隙間なく、

たとえば、いまここで、
       この弁当箱を裏返したとしても

落ちることのない御飯が、
目の前、水平に詰まっている。

真っ白なごはんのひろがり。

その、ほぼ中心に位置し

これまた圧縮されながらも、
      小円をなし、いくつもの皺をたくわえて紅一点

やや大きめの梅漬けがひとつある

これがいわゆる、
  し・ろ・じ・に・あ・か・く、の王道。
              日の丸弁当である。

黙って無造作に・・・
ふた裏についた飯粒を丹念にひろいながら
本体の四隅に目を配る。

箸を振りあげて迷わず
まず、弁当箱の左下の隅あたり、

大胆に突き刺し、口に一気に押しこむ。

午前の疲れ伴って、
口のなか、まだ乾いてままならず、

手こずりながらも、
顎と首を強引にせりだして、
          力ずくで飲みこみ胸を隆起させ

苦しさの内にも、腹の底にドンと沈むと
           しばし落ちついて、味なし。

つぎに、
箸の先端で梅漬けに軽く、穴をあけ、
    果肉を少しだけ絞りだしてすくい、
            隅隣りの飯につけてほおばる。

眼をとじてゆっくりとモグモグ動きだし、
ほぐれた頃あいで飲みこむと

かすかな梅のあと味に、
口のなか水々しく潤い溢れて、

その勢いで、もう二箸、
       真っ白のまま、かたまりを、
             たたみこんで序盤とする。

大切なのは距離をとって全体像をつかむこと。

この時、下一列を片付け、
梅漬けには小さな傷が、ひとつあるだけ

梅漬け、ほぼ原形を、
とどめていることが誇らしく、

             その美意識の高さが我にまぶしい

すると、左上部に、
淡い曲線が存在していることに気づく。

挟んで引きあげてみると
         塩イカのリングがひと切れ、
                やや斜めに埋もれていたのだった。

しかし、
塩イカは元に戻して触れず
梅漬け中心部を、思いきって崩しにかかる

箸にべっとりとついた梅の
およそ半分、口に含んで残りを、

その次と、その次の御飯に配っておいて
素早く白飯を大きくとって、口に押しこむ。

はじめて濃厚な梅漬けの味充満して
ストレス発散するが、
やや贅沢だったかと
また、突っ走ってしまったかと
          後悔の念渦巻きながら、からい。

そのあと、
ちょうど良い頃あいで順調に進み
いよいよ、梅漬け近くにさしかかる

ここでは、崩れた梅漬けを取りだし

右、上段へ移動させて、
残り半分の展開と
目測をイメージしておかなければ、
後々のトラブルの原因を生むこと必至。

ところで、無事、
梅漬けの移動を終えた
        そのくぼんだ部分、
              赤く焼けた白飯の美しさよ

真っ赤な飯、
一粒つまんでマジマジと見ると
表面の赤から薄紫がかって
白にいたるまでのグラデーションに

午前の作業の時間経過と
         自然の不思議を感じずにはいられない。

さて、そんなグラデーションを
愛でで楽しみ進んできたものの

残りは5分の2。

腹もたまりつつあって、
この先の味気なさの不安が頭によぎったが

まて、塩イカの存在。

これを掘り出して、つまみ、
前歯の上下で慎重に
ほんの5ミリかじってみる

     ?マズイ?

それは、
イカの形をした塩そのものであった
だが、この塩分により
最悪の事態の回避、
残りの長距離の道筋が確保され
         大胆な行動を取ることができる。

ここで、
ピッチを上げて追い込みたい私は
焦げ付いたヤカンの茶を注ぐことにした。

よーく掻き混ぜて
梅の種をよけながら一気に流しこむ

美味い、まずいは、ともかくとして
とりあえずの味はある。

そして、最後のひとくちを
種と一緒に流しこみ、
梅味をもう一度、口いっぱいに充満させて

プっと吐き出すと、
コンと音をたてて、
種ひとつ転がった空白の弁当箱。

ああ・・・
グッと、息を吐いて満腹である
      少し疲れも伴ってか、ガボッとゲップ。

そんな折、
ふっと隣りを見ると
一歩先んじて食べ終わっていた人物が
転がっていた種を口に含んで
弁当箱に波なみと注がれた茶を飲み
              喉を鳴らしていた。

その振る舞い・・・

たぶんあれは口の中、
種を転がし
茶に、梅のほのかを感じているに違いない。

・・・・深い。

これは、氏の無言の教えか?

私は見て見ぬ振りをして、従うしかなかった。

驚くのは、それだけではなかった。
一気に茶を飲み干したあと
いまだ種、口の中のまま、
          煙草をふかし始めたのである。

あわせて私も煙草をふかし、
氏の熟練に、いまや自分が恥ずかしい・・・・・

時、12時50分。
氏は午後の作業へと腰を上げて立った

・・・私もその背中を追う。

途中、氏が種を吐き捨てた。

土の上に転がった、一粒の梅種。
その種、白く色褪せて・・・

私はかがみこんで、その種、じっと見る。

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