ワンカップ酒の唄 、日の丸弁当 ≪ 姉妹編 ≫

汗ばんだ首筋にタオル一本
いま、どっと腰を下ろし

地下足袋から雪駄へ履きかえて
足袋、両の手でパンパンと叩いてほこりを払い、

揃え合わせたところで
       ハイ、今日の仕事はここまで。



陽に焼けた横顔、
深い目じりのシワに影を落とし
西の山に陽が沈む。

帰路のハンドル
迷うことなくいつもの角店へ。

無表情な店主、
目を合わせることもなく、
右ポケットに手をねじ込むと

決まった
【清酒180ml】辛口2本が、スっと出る。

本日店主から、
 さし出された【あて】は、
      サンマ蒲焼、ホテイの缶詰。

つり銭を見ることもなく、

言葉も交わさず
ただ受け取り、
だまって立ち去る。

これぞ、≪あ・うん≫
  長い間に培われた
     信頼と信用のたまものである。

さて、
いつも通りの小さな居間

投げた弁当箱の飯台、いつもの定位置

つま立てた体制から膝ついたまま
すぐ1本握って、
ふたを切った勢い止めきれず

グッっと、ひと口、
      のど2回鳴らして息をつぎ

追いかけて
   一気に飲み干し、
        またやってしまった。

いま数回、咳きこんで
   鼻から抜ける酒の息に、
      瞳うるんで視界が揺れる。

砂地に吸いこむ水の如く、
ああ、・・・じゅわっ?と、しびれる腹の底・・・

我が五臓六腑に沁み渡って、
   思わず口ずさんでいた 
     あの二代目、広沢虎造の名調子

(文久2年の3月の半ば
       いずこも同じ花見どき
          さくらの花は満開の
            
 人の心の春めいて
       なん?となく、いい気もち )
            

ここではじめて、あぐらをかいて
    左手に缶詰、右手でつけたNHK

そのまま次のカップのフタを切りつつ、
    見あげた 柱の時計( 残りざっと20数分 )

さて2本目。

これからは、カップ酒に小さく口を運ぶ。

    
  ・・・ぬるい・・・

ほろ酔いの響き、
     心と体の隅々まで行きわたって

やはり酒は常温、

その奥深さは、
   日本の四季のうつろいを
         重ね合わせることにある。

そう、じっくりと、
       あえて、もったいぶって漂う。

この繰り返しのたのしさ、まさに至福の時。

ふっと柱の時計を見ると
もう、12分が経過していた。

ここで、

割りばし、ガボっと口の奥まで突っ込んで
              唾液と絡めてしぼり

サンマの切り身、大きく取ってほおばる。

しばらくは
この甘だれのしょう油味のみで飲む。

やがて、カスカスになったサンマの塊。

一気に飲みこんだ、喉ごしの中ごろ、
    これを、わずかな酒で追いかける。

詰まりぎみ、
 ほどけてゆくこの違和感と
    苦しさが、いまや心地よい熟練の技。

2杯目の酒
気づくと残り半分となっていた。

いま、酒に対して
サンマ蒲焼の残量が微妙に多いこと
時にこうして、バランスを崩してしまうのが悪い癖。

終盤に備えて
微調整をしつつ進み

蒲焼ひと口、残したところで
酒4分の1となって
     修正は順調、狙いどおりである。

しかし、やや、のんびりしすぎたか?

残り時間あと2分

その時急に、気持ちが焦りだした。

酒屋の名前が刷られた紙袋に
     飲み終えた1本目の空瓶と

いびつに曲がった蓋ふたつを慌てて捨てる。

動作は加速。

サンマの残り口に放り込み、
 4分の1の酒を、ガボっと口に含んだまま
   空になった缶は汁をこぼさぬように紙袋へ
       
       横目で柱時計を睨みながらゴクリ。

            ここまでで40秒の経過・・・

そこにガラガラと玄関の音

   ・・・ 女房が帰ってきた・・・

静かにあぐらをかきなおし
         紙袋は飯台の下。

女房、黙して目の前を通り過ぎ
      居間の窓をバンとあけた。

シマッタ!

甘辛い臭いが充満していたか?
    しかし、あまりに乱暴な振る舞い。

炊事場にたったまま
   振り向くことのない女房の背中。

ならば、こっちはこっちと
        一本取り出し、
           火をつけたタバコ。

ニコチン肺に沁みて、
  吐き出した煙、水平に漂って
        無機質に流れているNHK・・・・

「 オゥ、一本つけてくれ 」・・・・・・・・・・。

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