銭湯の唄 、日の丸弁当 ≪ 兄弟編 ≫

ずらり布団が並んだ大部屋
鉄線で吊ったベニア板を水平に、
         ブラウン管のテレビがひとつ

座布団に散らばった花札

折りたたんだ布団を背もたれに
     腕を組んだ、しかめっ面。


西陽射し込む擦れた畳に
筋立った足首と、そのくるぶしが際だつ
      白のズボン下に、U首長袖の面々。

さて、この度の現場は、
飯炊きババア付きの風呂なし。

・・・旅仕事の休日である・・・

時、15:30。
まるで計られたような寝返りから
目があって無言、アゴ突き上げた合図

とぼとぼと後をついて・・・
    たどり着いた銭湯、名前は【桃の湯】。

男の、のれんをくぐった二人ずれ
さて、互いに洗面器を棚におき

熟練、首から胸へ汗をしたたらせて
まずは、ズボンから脱ぎ
ゆっくりと上着のボタンを外す
       その、脱いだ姿が見事であった。

皮膚にピッタリと、はりついたベージュ色

やや痩せ気味でいて、
しかしガッチリとした骨太のラインが

微細な毛玉に、淡く包み込まれている
      ひさかたに見るラクダの上下。

一文字に締まった口に
青黒く張ったえらと深い毛穴から下

このいでたちとなれば

さすが( 飯の数の違い )
その熟練を、言わずと推し量ることができる。

さらに
そのラクダの胴回りには

銀ラメ散らばる
    えび茶の腹巻き、
         しかも、リブ編みであった

これを垂直に、かつ丁寧に下げる・・・

この時、腹巻とは
夏するものだと冷たいあしらい
さらには
単なる腹冷え対策だけではなく、

財布と、厄除けのお守り入れを兼ねた
一石三鳥なのであった。

さて、ガラリと戸を開けると、
湯気、乱れなく立ち昇って静かである

ここで、タオルを左肩にかけて
右、ピラミッドに積まれた
ケロリンの洗面器をとって、
真っ直ぐ摺り足ぎみに進み

大風呂まえで、そんきょにて開脚。

ここで

一、湯、少なめに取って左手添えながら開脚の中心へ
ニ、洗面器、およそ半分取って左右の太腿にかけ
三、歯、喰いしばり、満タン取って頭からかぶる

鮮烈、熱さ全身に走ったこの時
唇さらに真一文字に絞って迷わず

ガバッ??っと、顔半分まで、なだれ込んで
ブバッ??っと、シブキを吐きながら浮上し

いま、ようやく、
犬のような唸りを伴った呼吸落ちつく。

ああ、ありがたきは、
どうにも手の届かぬ背中のあせもを
この熱さが、チクチクと針のように突き刺し

快感、首から後頭部まで、痺れあがったところで
追いかけてタオルで、顔面から背中にかけ
           力強くこすって痛いが

これぞ、一番風呂の醍醐味。

しかしもう、我慢も限界

曇った鏡の前、
プラスチックの椅子に座り
        全身真っ赤である。

しばらく、うなだれて

視線の先のレバー
青を長押ししながらの、
赤のトンピングでぬるま湯を作り

頭からかぶって、ようやく息が整う

本日のレモン石鹸、

新品のせいか泡立ちよく
       気持ち晴れやか

全身に泡に包まれ、
再びレモン石鹸を取って、
直接すり込んだ頭と顔面も泡。

熟練、目を閉じたまま、ぬるま湯を作り
湯をかぶる直前に開けた目、泡の中にあって真っ赤

しかも、目尻の皺、泡を絞りだして威容である。

そんな熟練を横目に
私は、かるく湯に浸かって出ることにした

そこにすれ違って湯に沈む熟練。

脱衣場、私の番号は桃の4番

すぐに服を着込み、
コカコーラを飲みながら、熟練を待つものの

・・・まだ、こない・・・

ひとりイスに座ったテーブルの上にある
空きビンがひとつ。

そこにガラリ、

タオルを左肩に掛け

眉、吊り上がり、
唇、への字にした形相で熟練が現れ

無言のまま冷蔵庫から取り出したのは

【フルーツ牛乳】

全身から、おびただしい湯気をまとって
          扇風機の前、仁王立ち。

いま、目の前で
左手、腰に勇ましく当てて
牛乳ビンを右手に、目を閉じて反りかえっている。

・・・思わず見入ってしまった私・・・

そこに飲み干した熟練の目が、カッと開くと
        その顔、私に向けた満面の笑み・・・

リアクションできず、背を向けてしまった私。

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